情熱の歌姫「瑠璃子」

栢の森峠を過ぎると一面に広がる鱗の様に並ぶ棚田を真っ赤に燃える曼珠沙華が
黄金色の田圃を一際鮮やかに取り囲んでいる。ここは明日香村稲淵
集落の入り口には太い大縄が張ってあり これを男綱と言うののだ。栢の森には
女綱が張ってある。入口の稲淵は男が守り、奥の栢の森は女が守るとの言い伝えが
今でもこの綱が物語っている。

栢の森の一番高いところに龍福寺が、集落全体を見渡せる位置に建つている。
ここが瑠璃子の生家である。元は城であった様で石垣や折れ曲がった石段がそれを物語ってくれている
光明氏が営営と築き上げたその姿は、集落のいたる所に残されている。「黄金田龍司」
瑠璃子が私に付けた名前の由来が此処に来て理解できた。たわわに実った棚田と龍福寺の司か?

光明瑠璃子が芸大の歌劇部に入って来た時に、初めて龍福寺に紹介されて、1泊することになり
風呂に案内されると 真っ白な絹の着替えが眼に付く、案内した寺男が「馳走が出来ないので伽女で我慢して下さい」
と何食わぬ顔で去っていくと 

入れ替わりに腰巻を尻絡げした伽女が二人で、裸になった龍司の前後で、垢すりを始めた首から肩 
胸から腹部を擦るとき、前屈みの伽女の姿勢で福やかな胸の谷間が龍司の目の前に揺れ蠢いている。
20歳の龍司にはこの光景を見ただけで、興奮が頂点近くに達している。

龍司は湯に浸かる時間もそこそこに、用意された純白の浴衣に着替えてその場を逃げる様に出て行くと、
控えの間には寺男が几帳面な顔で待っているではないか、
(嗚呼是で良かった)と安堵の胸を撫で下ろし、寺男の案内で奥座敷に通された。
此処で瑠璃子の祖父の栢雲斎に、瑠璃子の少女時代の隠された部分を知さる。




瑠璃子の父は、結婚して間もなく愛妻が身篭ったのを知る由もなく 兵役で戦地に赴き帰らぬ人となった。
其の頃の母1人子1人の生活は如何様であったか計り知れない。

母も疲労でこの世を去り、2歳にして孤児となった瑠璃子を龍福寺で育てる事となったが、3歳になると 
本堂で木魚を叩き歌を歌い 踊る姿は、あどけない子供でなくまさに天女の到来か・・
この地に伝わる飛鳥川上坐タキリヒメの霊力を持ち備えた 生まれ変わりかと騒がれたが
栢雲斎にとっては、迷惑千万のこと、しかし其の噂が明日香の町に知れるころ瑠璃子は
催しの会場で引っ張りだこになり、奈良公園のアイドル的存在となっていく。

その後は道頓堀の松竹楽劇部(OSK)で少女レビューの舞台に立っていた。瑠璃子7歳。

尽きぬ話もそこそこに 龍司は寝室に案内される。案内の寺男が襖を開けると

御簾の向こうに行灯の灯りに寝具が・・見える 其の儘で龍司は横になっていると、瑠璃子が
「御免なさい爺様の自慢話で遅くなり私の時間が無くなります」と行灯の灯りを消して衣擦れの音
龍司も寝衣を脱いで 瑠璃子の素肌を思い切り抱擁し「幸せ」「嬉しい」いつもの合言葉で此の時が始まる
龍司が知る女と言えば遊女しかなく、本当の女は瑠璃子と思っている。
腕の中の瑠璃子は、いつもの寝物語で情熱の国スペインで勉強をしたい 其の時は龍司も来て来て〜・・と
龍司は「何時でも一緒だよ〜」 この言葉で瑠璃子の体は燃え尽きるのだ・・・
「大舞台マブシイ・モエツキル」 龍司の抱擁に力が入り 瑠璃子の爪が背中に刺さる・・

龍司と瑠璃子の出会いは、京都の青空楽団で瑠璃子が歌っているのを龍司が「帰り船」をリクエストして
「其の歌は彼方が歌って」と言われて、龍司は 恐る恐るマイクを手のしたのがきっかけで龍司も三下の仲間入りになった。